マンション管理組合と日本システム企画の「連携プレイ」

何度かこのブログで取り上げているNMRパイプテクターという「赤錆除去浄水装置」を販売している日本システム企画株式会社のサイトには,資料請求のフォームがあり,だれでも請求することができます。私も,この製品に関心を持って2018年9月に資料請求を行いました。そうしたところ,その月のうちにレターパックで資料が届きました。自宅の住所と本名を明かしての請求で,先方は小波秀雄という名前に警戒して送ってこないのではないかとも予想していたのですが,案に相違してすぐに届きました。その後も何回か送られてきたのですが,中身は大半重複していて新味に乏しいものでした。

実は私,そのときすでに「NMRパイプテクターについて」という署名入りの文書をネットに公開していたので,日本システム企画の人がそれに気づいていれば送ってこなかったと思われますが,どうやらその情報はまだまだマイナーだったようです。

さて,届いたたくさんの資料を一枚ずつめくっていったところ,いろいろと興味深いものがあったのですが,それはいずれ紹介するとして,その中でとりわけ驚くべき文書のコピーが添えられていたのです。『「NMRパイプテクター」に対するホームページ上の誹謗中傷による被害』と題された文書です。そのままでは差し障りがありますので,タイトルを残して文字を判読できないようにぼかした画像を貼り付けておきます。



日本システム企画から小波に送られてきた文書



この文書,実は日本システム企画が発行したものではありません。右下に署名と印のようなものが見えますが,ここにはあるマンションの管理組合の理事長の署名に角印が押されています。角印というのは法人や団体の代表印ですね。日付は資料請求の半年ほど前になっています。宛先は書かれていませんが,状況と文脈からして日本システム企画であることに間違いはありません。

なぜマンションの管理組合の理事長が出した文書がパイプテクターの販売元に?

たとえばの話,あなたが人に出した手紙を,受け取った人が他のだれかにそのコピーを送ったとしたら,人間として信頼を裏切る行為ですよね。仮に,事前の了解を取り付けたとしても,知らない人に開示されてしまうなどおもしろい話じゃない。ましてこれは,あまり第三者に見てほしくない内輪の信書のような内容なのです。どういう内容か。以下,太字で引用します。

当管理組合は今年で竣工後XX年目となり,給排水更新工事のタイミングが迫っている事から専門委員会を立ち上げ(中略),修繕委員会並びに理事会の総意としてNMRパイプテクター設置を総会の場で住民に図(ママ)ることにしました。

総会で出席者の中に反対意見者がおり,ホームページ上にある『天羽優子氏のNMRパイプテクター誹謗中傷文』を利用してタブレット端末を周囲に見せびらかせたことにより他の出席者が大変困惑しました。仮に本議案が流れた場合,当管理組合は高額な配管全面更新工事という事態になり,(中略)多大なる不利益を被ることになります。これらの困惑を紐解く(ママ)に到るには大変難航しました。

何かを提示して意見をたずねることは「諮る」と書きます。諮問の「諮」です。それを「図る」とすると意味が変わります。本音に近いほうへ変わっている?いやいや。それと,困惑は解くとか解消するとか表現するんじゃないでしょうか。それとも「困惑」という題名の本を紐解いたのかな?

なんてことはともかく,理事長氏はNMRパイプテクターをマンションに設置させようとして住民の総会に提案したらしい。ところが,住民の中に反対者がいて山形大学の天羽准教授が公開している批判文書を総会の場でみんなに見せて,それで揉めたのですね。

総会にかぎらず,会議というのは議論する場なんですから,反対意見が出たら議論すればいいと思うのですが,ともかくそれで理事長は大いに困った。ふつうの会議でよくあるように「ご質問,ご意見ございませんか?」「・・・・・・」「それでは賛成の方は拍手でご承認ねがいます」という段取りをたてたいのなら,ワーキンググループを作って議論してもらい,事前に情報を公開して意見を反映するものですが,どうだったのでしょう。

水道設備の保守はマンションの共用部分に関する大きな案件で,予算もかかるのですから,決定の手順は丁寧でないとまずいはずです。しかしこの文書を見る限り,日本システム企画の製品に内輪で絞り込んで,反対意見が出るとは思いもせずに総会にかけたように見えます。結果,総会で反対者が発言して,周囲にも同意を求めるという状況になった。

その状況が出来して狼狽し,困惑した理事長は,「こんな妨害をされているんですよ」と,販売元の日本システム企画に状況をファクスで通報したということなのでしょう。 

どう見ても不明朗な話ではないでしょうか

マンションの管理組合は住民から管理費などのお金を集めて全体のための事業にそれを使う権限を委任されています。当然のことながら,その運営には住民全体の意志を反映させなければならないことが,区分所有法に規定されているわけです。とくに大きな予算執行を伴う案件では,合意形成のために誰からの意見も取り入れて,可能な限りプロセスを透明にしておかないといけません。そうなっていれば,総会の場での猛反対といったこともまず起きないでしょう。ところが総会の後で,販売元の会社に議事が難航した様子を報告し,窮状を訴えるという行動を,理事長はとってしまったわけです。驚くべき行動です。

公的な予算の執行においては,団体の責任者は調達先との間に特別な関係があってはいけません。当然ですよね。それが,「あなたのところの製品に決めていたのに,とんでもない横やりが入って困った事態になってしまった。」という文書を送るなど,言語道断な行動です。常識的に見て,不明朗な話と思います。なんらかの利害関係を共有していなければこんな行動を取らないでしょう。利害関係が共有されているのなら,状況を内密に通報して相談するという行動にも納得がいきます。道義的には納得できませんが。

日本システム企画がとった驚くべき行動

しかも,報告を受けた日本システム企画という会社は,製品の資料を請求した第三者の私へ,その文書のコピーを送ってきたのです。その時点では不特定多数のひとりですよ。まったくわけがわかりません。見た途端に文字通り目が点になりました。

会社がこんな非常識な行動をとった理由は,ひとつしか考えられません。文面にある『天羽優子氏のNMRパイプテクター誹謗中傷文』が会社にとってきわめて不都合なものであり,なりふり構わずそれを非難しようとした―それしかないでしょう。

通常,製品の資料を会社に請求する人は,なんらかの関心をもっているはずです。多くは製品の導入を検討するための材料にしたいというのが動機でしょう。となると,製品について都合の悪いことを書かれた記事については,否定しておきたいというわけです。その心理は,分からないこともありません。でもそれは藪蛇というか,寝た子を起こすというか。顧客となる可能性のある人に与える心理的な不安を考えると,ずいぶんと愚かしい行動と見えます。少なくとも私の感覚では,これで製品への不安を解消する人よりも,「えっ,そんな話があったのか!」と逃げ出す人のほうが多いのではないかと思います。これはどうなってるんだと,ネットで検索すれば,天羽さんの批判を見つけて読めるわけですから,本当に藪蛇もいいところです。

なんとこの文書は日本システム企画がネットに公開していた


そうこうしているうちに,思いがけないところから情報をいただきました。問題のマンションの住人の方です。Lさんという方で,ネットで私のことを知って,連絡してこられたのです。いろいろやりとりしているうちに,その方が,なんと日本システム企画のサイトに,最初に紹介した理事長発の文書が掲載されていると教えてくれたのです。さすがに署名部分に黒塗りはしていましたが,誰が書いたのかは関係者なら誰でもわかります。

そこまでやりますかね?そもそもそれで誰が得をするのでしょうか。理事長からの通知を,「こんなふうに天羽というやつの誹謗中傷を撒き散らしてとんでもない妨害をするやつがいるぞ!」と,天下に知らせようとしたのか。意味不明です。

私の資料請求に付けてきた方はモノクロコピーでしたが,ネットにあった文書の署名部分はカラーで,こちらのほうが生々しいですね。


その後,その文書はサイトから削除されたようでアクセスできなくなりました。


絶句した理事長はそれでも言った

Lさんは,文書の署名人である理事長に,その文書がネットに公開されていると教えてあげたそうです。そうしたら理事長はその事実をまったく知らなかったらしい。自分が書いた,しかもかなりきわどい内容の文書が,受取人によって世界中に見えるように晒されていたのですから,これは信用を失ってもしかたがない状況と思います。

ところが,事実を知らされた理事長は,真っ青になって絶句した後こういったそうです。

『印鑑の大きさが違うから偽物だ』

不意を突かれて思わず出た言葉かもしれません。これは自分が出したものに違いないといったら,会社と理事長が結託していたことを認めることになるわけです。まさに動かぬ証拠を突きつけられて認めてしまう形ですから,管理組合の一大スキャンダルになってしまいます。「偽物だ!」と言いたい心理はよくわかります。

しかし,逆に偽物というのが真実だったら,日本システム企画という会社はその理事長の名前と印鑑を勝手に使ってニセの書類を出したことになります。それは有印私文書偽造という刑法の罪にあたるものであり,理事長としては日本システム企画を刑事告発すべきなのではないでしょうか?しなかったらしなかったで問題だろうなと,私は思います。もちろんこれは,このマンション住民の内部問題ですから,部外から口出す筋合いではありませんが。

同じ茶番は他のマンションでも起きている

マンションの水道設備の更新時期に一部の理事会メンバーがNMRパイプテクターを入れようと提案し,強引な手続きを引き回しているケースは,他にいくつも聞いています。「何なら日本システム企画の人を連れてきます」と,いかにもツウツウであるような態度を取る理事がいたという話とか,批判を強引に封じ込めてまで強行しようとする話とか,いろいろなところで異常な運営がなされているようです。実は,ここで取り上げた文書暴露の舞台となったマンションでも,議事進行で反対を封じ込めた上で理事会案への賛成多数を取って,結局導入してしまったのです。賛成票の多くが欠席者の委任状によるものだったことは言うまでもありません。

日本全国で,多くのマンションが老朽化すると同時に,マンション住民の自治も形骸化が目立ってきています。少数の古株の理事が,あるいは長年留任し続けている理事長が,苦労しながら管理運営に携わっているところは珍しくないでしょう。そのご苦労は本当に頭が下がります。

その中で,1千万円も2千万円もかかる設備更新をたった300万円の装置を取り付けるだけでなしにできるという誘いがあったら,そしてあまり考えたくないことですが,何らかの利害関係が販売側とできていたとしたら・・・無理無体な導入の裏にあるものは,誰しも想像してしまうのではないでしょうか。