トリチウム水をめぐって


小波秀雄

August 2018 at Nagasaki

垣内秀樹氏発表資料(抄録)

基本の確認

$^3\bf H$

  • $\rm ^3H \longrightarrow ^3\!He + \beta^{-} (18.6 keV)$
  • 半減期:12.32 y

成因

天然由来:宇宙線と大気の反応

  • $\rm ^{14}N + ^1\!n \longrightarrow ^3\!H + ^{12}\!C $
  • $\rm ^{16}O + ^1\!n \longrightarrow ^3\!H + ^{14}\!N $
  • 天然に生成する分の存在量は 960 PBq 程度

核実験で生成

原子炉内

  • $\rm ^2H + ^1n \longrightarrow ^3H $
  • その他いろいろ
  • 加圧水型原子炉で 200 TBq/y 生成(環境中に放出)

降水中の濃度

  • 人工的な生成がない場合:0.2〜1 Bq/L
  • 核実験が頻繁に行われた1960年代: 100 Bq/L
  • 最近のデータ: 0.5 Bq/L 以下

障害の記録

放射性核種の中で,トリチウムは最も危険性が少ない。 内部被曝による致死例は2例。いずれも夜光塗料産業の従事者。

事例1:60歳技術者, 1964年スイス

  • 1937〜 Th, Ra の測定装置建設
  • 1955〜 β放射体を用いて夜光塗料用化合物の研究
  • 1957〜トリチウムガスを使用
  • 1957〜1964 の間に 270 TBq使用, 推定被ばく線量 5.4 Sv
  • 臨床症状:数年にわたって高血圧,十二指腸潰瘍,甲状腺機能亢進症
  • 1964年11月死亡:骨髄細胞の顕著な現象を伴う再生不良性貧血

事例2:夜光塗料関係者

  • 当初ラジウムとストロンチウム90で作業(健康被害出ず)
  • トリチウム取り扱いバッチ処理―一度に10TBq 程度,3年間あまりで 200 TBq程度を取り扱う
  • 推定被曝線量は10Sv弱
  • トリチウム作業開始32ヶ月後,悪心,倦怠感。作業中止
  • 15ヶ月後,汎骨髄球減少症で死亡

治療過程と解剖による分析結果

  • 組織のトリチウム濃度は尿の6〜12倍→有機物の水素として取り込まれている
  • 尿中排泄曲線の分析→生物学的半減期に非常に長い成分
  • トリチウム取り扱い中止から死亡までにかなり長い潜伏期と無症状の時期があった

当時のICRPの安全基準の最大許容量の10倍で健康被害が発生(100倍が妥当)

基準をより厳しく改訂

福島第一の汚染水処理の現状

処理について

「原理的には」処理のいろいろな選択肢があるが,多くは現実的ではない。

トリチウム水タスクフォース報告書(2016年6月)

トリチウム処理に関する経産省の公聴会開催

  • 8月30日:福島県富岡町
  • 8月31日:郡山市,東京

同原発の敷地には処理水約107万トンをためたタンク約880基が建ち並び、「敷地内のタンク増設には限界がある」と処分の必要性を強調。タンク撤去後の跡地は、1~3号機の溶融燃料(燃料デブリ)取り出しの作業エリアや、使用済み核燃料約1万体の保管場所などに活用するとした。処理水の処分は、海への放出や蒸発、電気分解など五つ検討していることも説明する。 (毎日新聞2018年7月13日)

関係者の状況

政府有識者会議・経産省タスクフォース

2016年4月に「希釈して海洋放出」することがベストだという報告書。 ただし,経産省には処理方法の決定権はない。

東電ホールディングス

決定する立場。川村新会長就任時(2017年7月12日)の発言で

「もう判断をしているんですよ。(原子力規制委員会の田中俊一)委員長と同じ意見です」 (東洋経済,河北新報)

規制委員会:規制への適合性をチェックする立場

川村発言に反発。 平成29年7月19日の 原子力規制委員会記者会見録

田中委員長:先日、川村会長と社長と面談したときに申し上げたのは、やはり地元とき ちっと向き合ってほしいということを申し上げました。今回の報道ベースで見ています と、トリチウム水を放出するのは私と同じ考えだという言い方をされているふうに見え るのです。今までは、経産省が決めないとか、国が決めたのに従うとか、誰かのせい、 私のせい、私を口実にするとか、それは私どもが求めていた向き合う姿勢とは全然違う のです。当然、いろいろな反発があるだろうし、いろいろな問題がありますよ。だから こそ会長とか社長がきちっと向き合わないと、この問題は解決しませんよということを 申し上げた。そのことがわからないですね。というのが私の感想ですね。

(続き) では、水をい つまでもため続けられるかどうかということも含めてね。ため続けるのでしたら、どう ぞため続けてくださいと。タンクにも寿命もあるし、敷地にも限界があるし。先日の会 見でもそのことは申し上げたと思うのですけれども、そういうことがわからないという ことは、結局は、口先で福島が東京電力の原点ですと言うけれども、全然そうなってい ないなというのが私の感想ですね。

漁業関係者

2018年4月 福島県沖で漁獲されたキツネメバル,シロメバル,スズキについて、国から出荷制限解除

6月から漁を再開

原発敷地内に保管されている放射性トリチウムを含む処理水の処分方法を巡り、国が公聴会開催を計画しているが、野崎会長は「海洋放出には反対。これまで積み上げてきた試験操業が、ちゃぶ台返しのような(台無しの)状況になる」とクギを刺した。 (毎日新聞2018年5月24日 地方版)

 

小松 理虔 @riken_komatsu 氏のツイートから

地域活動家・ライター。関心領域はローカル、食、批評、アート、メディア、震災と原発事故など。『新復興論』(ゲンロン叢書)が9月1日に刊行予定。

以上です。質問などどうぞ。