この記事はタイトル (三好「ステロイド軟こうでアトピーは治らない --- フルコートF」, p.156-157)そのものが犯罪的である。この種の脅し文句で,どれだけのアトピー患者が効きもしないか さもなくば危険な民間療法に追いやられて地獄を見たか, アトピーの娘をもつ親としていろいろな例を聞いてきただけに, 私は怒りを禁じえない。
ステロイドはきわめてよく効く薬だが,
使い方を誤ると危険な副作用をもたらすことがある。
そのことは大切な知識だ。もっとも,この知識は今や常識になりつつあり,
それから感情的な対応が生じてしまい,
ステロイド剤はけっして使いたくないというアトピー患者や親もいる。
しかしながら,ステロイド剤を忌避した結果として,
アトピーを悪化させている患者や親はかなりいるのである。その多くは,
ステロイドを諸悪の根源のように非難して民間療法に走ったケースである。
温泉療法やなんとかのエキスだのなんとか水だのという民間療法で,
アトピーが治ることはほとんどない。まれに改善が見られたケースについて,
誰でも治るかのように誇大に宣伝して,泥沼のような地獄に落ちるケースが
しばしばあるのだ。
ステロイド軟こうの効果・効能にはヒフ炎と書いてあるが, アトピー性ヒフ炎とは書いていない。 ヒフ炎の症状を抑える効果はあっても アレルギーの病気であるアトピー性ヒフ炎に対する 効果・効能は認められていないのだ。(同, p.157)
アトピーに対する効果・効能が認められている薬が他にあるとでもいうのなら, この記述もなにがしかの意味を持つだろう。だが, アトピー性皮膚疾患には,有効な治療薬は今のところどこにも見つかっていない。 まずこのことを認識しなければアトピーの子供の親としては失格である。 免疫機構だけではなく, 神経や感覚器官や精神的なものまで関与しているのではあるが, アトピーの仕組みそのものは多少分かりかけてはいるものの, 治療への有用な知見が見つかっているわけではない。
そういう中で,現在良心的な医者がとっているアトピー患者への治療方針は
保守的なものである。
湿疹がひどくなってきたらステロイドを使って対症療法的に
炎症を抑える。見かけ上びらんがなくなれば,抗ヒスタミン剤などに切り替えて,
ステロイドの副作用を回避しつつ良好な状態を維持するように努める。
その一方で,アレルゲンの特定を進めてそれらを遠ざけさせたり,
激しいアレルギーを緩和するような薬剤の投与を進める。
それと並行して,ストレスへの正しい対応,全身の鍛練などの生活上のケアを進めていく。
こういった
地味な処置を,親も一緒になって患者の観察をおこないながら,
継続していくこと。それ以外には,現在のところ何も手段はない。
たしかにアトピーがステロイドだけで治るわけではない。
そもそもアトピーを治せる治療法はまだ見つかっていないのだ。
他にアトピーを治せる療法があったら,誰もリスクのともなうステロイドなんか
使わないだろう。ステロイドは,
複雑な推移を見せるアトピーに対するひとつの武器としては有用なのである。
「ステロイドも上手に使ってアトピーを克服しよう」というのが,
現在のところ最も穏やかで悲劇を産まないアトピー治療であるといっていい。
アトピーに効くと称する 民間療法の側では,「ステロイドはリバウンドが怖い」, 「西洋医学から生まれたステロイドを脱却して, 根源的に人間の体を捉える東洋医学の○×療法へ」 といった売り文句で患者を不安にして商売をしているのがほとんどである。 まさに悪徳商法である。「ステロイド軟膏でアトピーは治らない」などと いう不安をあおるタイトルで記事を書くこと自体, 悪徳商法に手を貸し, アトピー克服のための地道な努力を続けている患者,親, それに医療関係者に対する犯罪行為である。