結論1:次亜塩素酸水溶液を噴霧する器具は使ってはいけない
結論2:ミストに含まれる次亜塩素酸は粘膜や皮膚を犯す物質である
結論3:次亜塩素酸ナトリウムは危険だが次亜塩素酸水溶液は安全であるというのはデマ
結論4:経済産業省は権限を逸脱して次亜塩素酸水商法を援護する行動をとっている
(ウイルスを破壊することは「不活化」というのが適切ですが,以下では細菌も出てきますので,科学的にあまり適切でない「殺す」という表現を便宜上使っています)
次亜塩素酸をめぐる科学と今起きている問題
27日の午後,ツイッターに次のようなツイートが流れました。いくつかのリプライを付けてスクリーンショットを取ったものを示します。以下のようなやり取りになっています。(注記:アカウント等は抹消しました:2020/05/01)
会社で次亜塩素酸水を霧(ミスト)状に散布しているのだが息苦しくなった。胸が痛くなるレベルの息苦しさで,空気の薄いところにいる感じになる。
(リプ)原液を使ったのではないか?→(返事)いや用法通り薄めている
これに対する指示は,ひとつしかありません。
「直ちに使用を中止して,外気を吸いなさい。気分が回復したら戻って部屋を換気しなさい。しばらく待って回復しない時には医師のところへ!」
どういう状況であれ,吸引して息苦しくなるような事態が発生したら,すぐにその場を出て外気を吸うべしというのは,実験室や薬品を扱う事業所においては基本中の基本です。まずは身を守ること,それが緊急の際にとるべき行動です。
何が起きたのか—有害な濃度の次亜塩素酸水溶液のミストを吸入してしまった
ツイッターで流れた事故の原因は容易に推測されます。この会社では,次亜塩素酸水を製造する装置があり,それを霧状にして室内に噴霧することで,空気中のウイルスを殺そうとしたものと思われます。このとき,次亜塩素酸の濃度が非常に低ければ何も感じないで終わります。しかし,濃度が濃かったために,鼻やのどの粘膜が刺激されて,このような症状を訴えることになったのでしょう。
次亜塩素酸は強い酸化剤であり,有機物を酸化して分解する能力を持つ物質なのですから,本来危険なものなのです。「次亜塩素酸は次亜塩素酸ナトリウムではなく安全だ」という人もありますが,ウイルスだけを分解して粘膜細胞のタンパク質は分解しないなどという都合の良い物質は存在しません。ミストにして吸入することは絶対にやってはならない行為です。
次亜塩素酸,次亜塩素酸ナトリウムとは何か
次亜塩素酸は \(\bf HClO \)という化学式で示される不安定な弱酸です。単独の分子としては存在せず,溶液中にだけ存在可能です。この物質の反応速度は詳しく調べられていて,他の分子を急速に分解することが分かっています。荒っぽい野郎がやたらめったら喧嘩して自滅するようなイメージですね。
塩素を水に溶かすと,次のような加水分解反応によって塩化水素(塩酸)とともに生成します。つまり,次亜塩素酸水は塩素を水に溶かした薄い溶液と化学的に同じものです。水道水の塩素はこわい!と叫ぶ人たちがいますが,逆にありがたがる人も誤解と無知にもとづいているのです。
$$\bf Cl_2 + H_2O \longleftrightarrow H^+ + Cl^- + HClO $$
反応式中の\( \longleftrightarrow\) は平衡反応,つまり左右に行き来できる可逆反応を意味します。
つぎに,次亜塩素酸ナトリウム \(\bf NaClO\)は,次亜塩素酸のナトリウム塩です。次亜塩素酸を水酸化ナトリウムで中和して得られる物質で,元の酸よりもずっと安定です。
さらに次亜塩素酸ナトリウムは,強塩基(アルカリ)性の溶液中では長期保存に耐える安定性をもっているので,市販の塩素系殺菌・漂白剤では,水酸化ナトリウムを加えて安定化してあります。その中では次亜塩素酸は水素イオンが取れて陰イオン\(\bf ClO^- \)になっています。
さて,この次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に酸をくわえてみましょう。すると次のようにして次亜塩素酸が生成します。
$$ \bf ClO^- + H^+ \longrightarrow HClO$$
ということは,液中に高濃度の次亜塩素酸ができ,その結果,上に示した平衡反応はル・シャトリエの原理に従って左に寄っていき,塩素が発生する — これが「まぜるな危険」の意味なんです。
次亜塩素酸水の作り方
現在市中に商品として出回っている次亜塩素酸水は,「弱酸性次亜塩素酸水」などのように弱酸性の製品ですが,製法は大きく分けて2通りあることがわかります。
- 次亜塩素酸ナトリウム水溶液に酸をまぜて弱酸性にする
- 食塩などの水溶液を隔膜法で電気分解して陽極側の生成物を使う
次亜塩素酸ナトリウムに酸をまぜるやり方
1.について考えましょう。上で示したように,次亜塩素酸ナトリウム系殺菌剤に酸を加えると,もろに「まぜるな危険」が実現してしまいます。クエン酸や酢酸のような弱い酸でも起きます。私もごく小規模の実験で試してみましたが,塩素が発生してえらいことになります。もちろんプロの真似はしないでくださいね。
それでは,ごく薄い濃度の次亜塩素酸水なら大丈夫だろうということで,希釈した次亜塩素酸ナトリウムを酸とまぜて作ろうという記事がネット上に見つかりました。酸としては炭酸水を使っていて,どうやらこの方式が「はやり」のようです。
どうして炭酸水を使うのかが謎です。なぜなら二酸化炭素を溶かした水はそこそこ酸性が強く,文献によるとpH が 4.2 から5.8ぐらいらしいのです。つまり,これは「まぜると危険」,つまり塩素系漂白剤に酸を混ぜると有毒な塩素が発生しますよという酸性の強さです。
たぶん,炭酸とかありふれた酸性の水だからあぶないことなんか起きないというなめた思いでもあるのではないでしょうか。この記事ではピューラックスという医療でよく使われている塩素系漂白剤を炭酸水で薄めています。
さて,上記の記事に書かれたことでもっとも怖いのは,次のところです(元素記号の書き方など,化学に強くない人かなと思いますが,そのままにしておきます)。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を炭酸水中和すると
殺菌力80倍の次亜塩素酸HOCLに変わります。
NaOCL+H2CO3→HOCL+NaHCO3
殺菌力が強くなったのはどうしてか?それは反応性の高い次亜塩素酸になるからなんです。化学がとくいな人のためにそのことを示しておきます。
次亜塩素酸 \(\bf HClO \) の電離定数は \(K_a = 10^{-7.5}\) mol/L となっています。市販の次亜塩素酸系漂白殺菌剤ではpH が11程度の強塩基性の混合溶液ですから,その時の次亜塩素酸イオンと次亜塩素酸の濃度比を求めてみると次のようになります。結果は概数です。
$$\bf \frac{[ClO^-]}{[HClO]} = 10^{4.5} = 30000 $$
大半が次亜塩素酸イオンとして存在していることがわかります。
一方,炭酸などの弱酸を加えて pH を 6 とした場合には,つぎのようになります。
$$\bf \frac{[ClO^-]}{[HClO]} = 10^{-1.5} = 0.03 $$
つまり,大半の次亜塩素酸イオンは次亜塩素酸に戻ってしまいます。こうなると上の平衡の式にあるように塩素も生成します。
塩素は水への溶解度が高いので,気体となって出てくることはありません。しかし,私が実際に実験して試したところでは,塩素の臭いが感じられました。この記事のような実験でちょっと手順が前後したり,濃度を勘違いするなどのヒューマンエラーが起きたらと思うと,ずいぶん怖いことをやっているものです。
塩の電気分解で作るやり方
2.は中学の理科や高校の化学でおなじみの食塩水の電気分解の応用です。こちらは簡単ながら設備が必要ですが,今は家庭用から事業所向けまで製品が売られているようです。
食塩水を電気分解すると,陽極側から塩素が,陰極側から水素が発生し,溶液中には水酸化ナトリウムができる。それぞれの極での反応は次のようになるのでしたね。
$$ \bf 2Cl^- \longrightarrow Cl_2 + 2 e^-$$
$$ \bf 2H_2O + 2e^- \longrightarrow H_2 + 2 OH^- $$
溶液中にはナトリウムイオン \(\bf Na^+\) があるので,差し引きで NaCl が NaOH に変わってくれて,世界中で水酸化ナトリウムを製造しているとても大事な反応です。さて,陽極側でできる塩素,試験問題では塩素と水素の気体が同体積できるとなっていたりするのですが,実は塩素は水によく溶ける気体で,水と反応することによって,最初にお見せした反応式に従って電離した塩化水素と次亜塩素酸が生成します。
$$\bf Cl_2 + H_2O \longrightarrow H^+ + Cl^- + HClO $$
そこで,電解槽の中間に,両極の生成物が混ざらないように,ただしイオンは透過するような隔壁を置いてやります。下の図を見てくだだい。
電解槽の左下に,塩素と水から塩酸(強酸なのでイオンに電離)と次亜塩素酸が生成しています。これは次亜塩素酸水で,製法から酸性電解水ともいうようです。
つまり,このタイプの次亜塩素酸水も塩素を水に溶かしたものに他なりません。塩素と次亜塩素酸と塩酸を含む酸性の混合溶液で,未反応の食塩も含まれているはずです。適切な濃度であれば,消毒に使えますが,もちろん人体への曝露は避けるべき物質です。
電解による次亜塩素酸水製造機で起きうる事故
冒頭で紹介したツイートのような事故が起きる原因は何でしょうか。
そもそもの誤りは,次亜塩素酸を含む水溶液をミストにして室内で散布したことです。こんなことは絶対にやってはいけません。
食塩の濃度が高いと,生成量も当然増えます。調剤の誤りはよくあるミスです。
何らかの理由で電圧が上がれば生成量が増えます,機器の欠陥や故障はよくあります。
「空間除菌」というキャッチコピー,あるいは詐欺に騙されています。
ネットで「空間除菌」という言葉を検索するとたくさんヒットします。なんと社名として名乗っているところもあるのは驚きでした。どうやらこれはかなり魅力のあるキャッチコピーのようです。
たしかに「空間」に浮いているウイルスや細菌を「殺せる」と聞いたらイメージがかき立てられます。しかし殺菌力のあるものは人体にも有害なことが多いのです。次亜塩素酸であれ次亜塩素酸ナトリウムであれ,殺菌力の本質はタンパクなどの生体物質を酸化して分解することなのですから,それを私たちが呼吸する空気中に散布することはきわめて危険な行為です。残念ながら,この「魅力的なコピー」を作った人の意図に多くの人がはまってしまっているようです。
空気中の病原体を除くには空気清浄機が確実
ウイルスは空間に漂う微小な水滴(飛沫)やホコリの粒子に乗っています。それらを除くためには空気清浄機を使うのが一番です。日本のメーカーの製品はどれも,紫外線や光触媒を利用したり,放電によるプラズマを使って殺菌し,高性能のフイルターで除去しています。これこそがもっとも確実な空気からの除菌です。いうまでもないですが換気も有効です。
次亜塩素酸ナトリウムは危険だが次亜塩素酸水溶液は安全であるというのはデマ
この悪質なデマが広く出回っています。次亜塩素酸イオンと次亜塩素酸はいずれも皮膚や粘膜を犯し,だからこそ細菌やウイルスを殺すのです。人体にとってもどちらも毒なんです。
そして,強塩基性に保った次亜塩素酸ナトリウムは安定で,有効な働きが持続します。
酸を加えてpHを下げた次亜塩素酸水溶液は同じモル濃度であっても,塩素濃度が高くなります。つまり「強い」のです。そして急速に分解するので効果に持続性はありません。
これらはいずれも適切な濃度で用いれば殺菌作用を発揮するのですが,上のような違いがあります。次亜塩素酸水を使う場面としては,速く分解することを逆に利用した食品添加物としてというのがあります。もちろん食品への残留は認められないことになっています。
「まぜるな危険」の警告を悪用する悪徳企業
ご存知のように,市販の塩素系漂白剤の容器には大きな文字で「まぜるな危険」と書かれています。1980年代には,漂白剤を酸性のトイレ洗浄剤とまぜて塩素ガスが発生して死亡・重症事故が何度も起きており,そのためにこの表示がなされるようになったものです。
つまり,事故を引き起こした物質は次亜塩素酸ナトリウム(有効成分は次亜塩素酸イオン)ではなく,それに酸を加えて生成した次亜塩素酸であり,そこから発生した塩素ガスなのです。ピューラックスを炭酸で薄めるなんてどうかしています。
ところが,この「まぜるな危険」表示は万人が目にするもので,消費者によってはとても怖いものと思っている人がたくさんいるようです。いやね,まぜなきゃ危険じゃないんですよ。でも,不安を煽ってひと稼ぎしようという人もいて,この表示のことを思い出させるシンボルにしていると見えます。むしろ危険性をきちんと大きく示すことは,企業としての社会的信頼を高めることであると思うのですが。
実はほとんど水になった次亜塩素酸水が出回っているだろう
ここまで次亜塩素酸水の問題について詳しく考えてきました。主に濃すぎて危険なケースについて考えてきました。一方,実は薄すぎて危険を引き起こしているケースがあるのではないでしょうか。
もちろん,どんな成分であれその濃度がきわめて低ければ水と同じように無害です。健康上の被害がそのために発生することはありえません。しかし,それがウイルスを殺してくれるものであると思いこんでしまうと,実は大きな問題が起きてきます。
現在,かなりの数の自治体や小売店などで次亜塩素酸水を配布するところが出てきています。検索すれば分かることですから,リンクはしませんが,たいていメーカーが供給する「次亜塩素酸水」を住民が持参したボトルに詰めて配布する形のようです。
さて,上で解説したように,次亜塩素酸水の有効成分は不安定で分解しやすいものです。温度,光,少量の不純物があれば簡単に消えてしまうでしょう。それを使って消毒したつもりになることはきわめて危険なことです。
また「次亜塩素酸ナトリウムよりも薄くて同等の効果がある」という触れ込みがありますが,消毒薬はウイルスだけが乗った場所にかかるわけではありません。他の有機物があり,酸化剤と接触して腐食する金属も台所や流しにあるのです。薄ければいいというものではありません。まして,使用までに分解が進んでいたらどうなるでしょうか。
一転して次亜塩素酸水を「追認」した経済産業省の奇妙な判断修正
4月18日付の毎日新聞デジタル紙面にこんな記事がありました。経産省の有識者検討委員会で,一部の委員からの意見で次亜塩素酸水を手指消毒の対象に追加したというのです。記事を読むと安全性を確認して態度を変更したのではなく,すでに次亜塩素酸水を使った商品が一般に流通しているからという理由です。
同日の福井新聞も次の記事を載せています。
経済産業省は17日、アルコール消毒液に代わる新型コロナウイルスの消毒方法に絡み、塩酸や食塩水を電気分解した「次亜塩素酸水」は手指には適用外としていた判断を修正し、一部商品では適用されているものがあるとの見解を公表した。
経産省は従来、次亜塩素酸水が主に食品とドアノブなど身の回り品を消毒対象とし、医療用消毒器の認可を受けた場合を除き、手や指には使えないと説明。医療用のものは一般には出回っておらず、手指には適用外としていた。
だが、15日に経産省が開いた有識者による検討委員会で、委員側から一般に流通し、手指に使われる商品があるとの指摘を受け、手指を消毒対象に追加した。
次亜塩素酸水を巡っては、政府が10日の持ち回り閣議で「現時点で、手指の消毒に活用することへの有効性は確認されていない」との答弁書を決定した。厚生労働省などによると、次亜塩素酸水は殺菌効果はあるものの、長続きしないため、用途は限定されるという。
しかし,ある物質の安全性は,それが一般に流通しているからということを根拠にして判断してよいものでしょうか?この記事をよく読むと,実は安全性に関する議論はなされていなかったことがわかります。
しかも政府は,先立つ今月10日に,次亜塩素酸水の有効性について否定的な答弁を閣議で決定しているのです。どうみても矛盾した話です。10日から17日までの間に何があったのでしょうか?経産省に対して何らかの働きかけがあって,このような奇妙な態度変更が行なわれたとしか,私には考えられません。
そもそも衛生に関わる物質や製品の安全性を判断するのは厚生労働省であり,経済産業省ではありません。所轄外の事項について決定したり見解を表明することは,行政機構としては越権行為です。福井新聞の記事の最後に殺菌効果についての言及がありますが,それは厚生労働省の見解を紹介したもので,福井新聞の記者は経済産業省の処置を記事にするにあたって,確認のためにわざわざ調べて書いたのでしょう。なかなかのグッジョブです。
後追いでどさくさ紛れの「検証」に走る経済産業省
さらに経済産業省と次亜塩素酸水をめぐる動きについて,時事通信社は時事メディカル4月15日付の記事で次のように報じています。
経済産業省は15日、台所・住宅用洗剤の材料である「界面活性剤」など3品目について、文献調査の結果、新型コロナウイルスに対する消毒効果があることが分かったと発表した。代替ウイルスを使った検証試験を製品評価技術基盤機構(NITE)と実施し、5月中旬にも有効性が確認される見通しだ。
同省は、市販の消毒液が品薄な場合はこれらの品目でも代用可能で、検証試験の結果判明前に使用しても問題ないと説明している。
消毒効果が分かったのは界面活性剤のほか、塩酸や食塩水を専用機器で電気分解して作る「次亜塩素酸水」とウエットティッシュに含まれる「第4級アンモニウム塩」。いずれもドアノブなど物品の消毒に有効で、第4級アンモニウム塩は手指にも使える。洗剤を利用する場合は、ぬるま湯で薄める必要がある。
代替ウイルスの試験結果を確認後、実際のコロナウイルスを使った試験も実施する予定だ。
機能水関連業界が一丸となって政府に働きかけている
このブログの執筆中に,NHKが新しいニュースを報じて来ました。「消毒に使う“次亜塩素酸ナトリウム” 使用方法に注意を」というリードで,「専門家」が次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水は別物であり,前者は危険だが後者は安全といった趣旨の発言をしているというのです。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、ドアのノブなどの消毒に使われている塩素系漂白剤の成分「次亜塩素酸ナトリウム」について、専門家は、室内空間に霧吹きなどで散布する方法は人体への影響を否定できないとして、注意を呼びかけています。 家庭で使われる塩素系漂白剤に含まれる「次亜塩素酸ナトリウム」は、細菌やウイルスに効果があり、消毒液としても使用されています。
よく似た名称の液体としては食塩水を電気分解するなどして作られた「次亜塩素酸水」がありますが、こうした機能性のある液体の調査や研究をしている「機能水研究振興財団」によりますと、最近、消費者から、この2つを混同して使ってしまったという相談が寄せられているということです。
財団によりますと、次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸水とは異なり、低い濃度でも直接触れると皮膚を痛めたり、高い濃度で使った場合は有毒なガスが発生したりするおそれがあるということで、注意を呼びかけています。
この内容は,私がここまで説明してきたことと真っ向から対立しています。とはいえ,科学的な理由と根拠にもとづく申し入れではありません。
気になったので,この専門家が関係している「機能性水研究振興財団」というのは,どういう組織なのか,公式サイトを調べました。見ると研究組織ではなく,水関係の業界団体です。まさに今,新型コロナ騒ぎを好機として次亜塩素酸水を売り込んでいる企業が,従来の塩素系漂白剤の市場に進出するために作っている営利団体です。この団体はかなりの政治力をもつメンバーを擁して政府との強いパイプをもっているところにも,最近の経済産業省の動きとの関連が窺われます。
補足1:石けんや中性洗剤の殺菌作用は安全かつ強力
「新型コロナ騒ぎ」で明るみに出てきた人々の狼狽と,チャンスとばかりにいろいろなものが登場する巷を見ていると,がんの告知を受けて悩む人に押し寄せるありとあらゆる怪しげな療法と同じ構図を感じてしまいます。がんの治療では,第一選択として現在の知見とガイドラインにもとづく標準治療を選択すべきであり,あとはQOLを維持するための生活を心がけるのがもっとも賢いやり方です。少なくとも私はそれ以外のなんとか療法に目をくれるつもりはありません。
COVID-19 という大変な敵がやってきているということで,社会全体が不安に駆られている中でも,実は個人がやるべきことは単純ですし,費用もかかるわけはありません。ウイルスから身を守るための最も確実な方法は,石けんや中性洗剤で手を洗うことであり,世界中の保健機関が推奨しているのです。次亜塩素酸系の消毒剤は基本的にモノの表面の殺菌・消毒に使うものであり,人体への曝露,触ったり吸い込んだりを避けるべきものですから,その代わりにはなりません。どこの家でも簡単にできる石けんによる手洗いをやりましょう。それで十分な効果があるのです。
補足2:二酸化塩素を使った殺菌・消毒剤にも同様の危険がある
この点についても問題がおおありなのですが,また別の機会に譲ろうかと思います。とりあえずタイトルのみ出しておきます。