朝日新聞 2018年3月24日05時00分
東京都足立区の区立中学校で今月行われた性教育の授業が、学習指導要領に照らして不適切だとして、東京都教育委員会が区教委に対して近く指導をすることがわかった。16日の都議会文教委員会で自民党の都議が授業の内容を問題視し、都教委が調査していた。区教委は「不適切だとは思っていない」としている。
授業は3月5日、総合学習の時間で3年生を対象に教員らが実施。高校生になると中絶件数が急増する現実や、コンドームは性感染症を防ぐには有効だが避妊率が9割を切ることなどを伝えた。その上で「思いがけない妊娠をしないためには、産み育てられる状況になるまで性交を避けること」と話した。また、正しい避妊の知識についても伝えた。
この授業について、16日にあった都議会文教委員会で、自民党の古賀俊昭都議が「問題ではないのか」と指摘。都教委が区教委を通して授業内容を調査し、不適切な授業を行わないように区教委を指導し、来月の中学校長会でも注意喚起することを決めた。 都教委が問題としたのは、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」という言葉を使い、説明した点。中学の保健体育の学習指導要領には記されておらず、「中学生の発達段階に応じておらず、不適切」(都教委)としている。 指導要領の解説には、思春期には「男子では射精、女子では月経が見られ、妊娠が可能となることを理解できるようにする」とある。指導要領をもとに都が作った中学生を対象とした手引では、エイズや性感染症の予防などの項目はあるが、性交や避妊については触れていない。
一方、足立区教委の担当者は、「不適切だとは思っていない」と言う。「10代の望まぬ妊娠や出産を防ぎ、貧困の連鎖を断ち切るためにも、授業は地域の実態に即して行われ、生徒と保護者のニーズに合ったものだ」。性交や避妊は引き続き教えるという。 授業を実施した中学校の校長も「授業は自信を持ってやっている。自分やパートナーを大切にすることを伝える内容で、避妊方法に触れるからといって、性交をしてもいいとは教えていない」と話す。 古賀都議は、2003年に都立の旧養護学校で行われていた性教育の授業を批判し、都教委が教諭らを厳重注意。元教諭らが「教育に対する不当な支配だ」と主張した訴訟で都とともに損害賠償を命じられている。11年の東京高裁判決は指導要領の効力について「一言一句に法的な拘束力があるとはいえない」などと認定した。
今回、都議会で質問したことについて古賀都議は「中学生の段階で性交や避妊を取り上げるべきではない。行政を監視するのが我々の役割で、不当介入にはあたらない」と話した。 (斉藤寛子、山田佳奈)
■中学生までに教えるのが国際標準
国内外の性教育に詳しい橋本紀子・女子栄養大名誉教授の話 すべての子どもが通う義務教育段階であり、実際の行動に移る前の時期だからこそ、性感染症や予期せぬ妊娠を防ぐために、中学校で避妊などの知識を教える意義がある。国際的には、発達段階に即して中学生までに教えるということが標準になっている。教師が批判されることなく科学と人権の両面から性や生殖について伝えられるように、文部科学省は学習指導要領を整えるべきだ。
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