昨年末、政府の地震調査研究推進本部は「北海道沖で30年間にマグニチュード9級の地震発生確率が最大40%」との見解を発表した。しかし、こうした「予言」は地震が起きたら「当たった」と言い、外れても「残りの60%」と逃げられる。具体性に欠け、防災に役立つものではない。
政府は南海トラフ地震や首都直下地震の確率に加え、「全国地震動予測地図」も発表している。この確率計算は、大地震が特定の地域で繰り返し起きる「周期説」に基づくが、科学研究ではこのような直観的にわかりやすい説が誤りだと判明することは多い。周期説も米国の研究者らが世界中の地震データを検証して誤りだと繰り返し指摘する。つまり大地震の規模や範囲、発生間隔はバラバラで、周期的な発生を予測できるという仮説自体が誤りなのだ。したがって、周期説に基づく政府の確率計算も意味をなさない。
政府が特に警戒する南海トラフや首都直下の地震は起きておらず、確率がはるかに低いとされた熊本地震が発生、東日本大震災も「想定外」だった。政府の予測が疑わしいと誰でも感じるはずだが、政府は血税を使って無意味な確率的予測の発表を続けている。
いわゆる東海地震の前兆をつかみ警戒宣言を出す直前予知の仕組みは昨年、ようやく事実上廃止された。しかし、科学的裏付けに欠ける予知を「できる」と40年間も人々を欺いてきた責任を誰一人とっていない。
確率的予測や直前予知に携わっているのはほぼ同じ地震学者たち。学術的根拠がないのに、研究費欲しさに批判の声をあげない。地震発生の仕組みを探る研究は今後も続けるべきだが、研究者には学問的事実を社会に対してありのままに述べる責務がある。
現時点では、正確な予測も予知もできないのが現実なのだ。北海道も南海トラフも首都圏も、他地域に比べて地震のリスクが高いとは言えない。政府は科学的根拠のない確率発表をやめ、不意打ちの地震に備えた防災や都市計画など現実的な政策を実行すべきだ。メディアも無批判に政府予測を垂れ流し、人々を惑わせることをやめよ。国民は地震は不意打ちだと理解し、命を守る準備をしよう。(構成・竹野内崇宏)
(Robert Geller 東京大学名誉教授〈地震学〉)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13383100.html