メルマガ会員各位 旧年中は大変お世話になりました。 本年もよろしくお願い申し上げます。 ■■======== 2020年1月15日発行 =========■■ 一般財団法人親学推進協会 メールマガジン 第119号 ■■===============================■■ ~~目次~~ 1.親学基礎講座を2月に開催 2.会長、高橋史朗の近況報告 3.図書紹介 ☆当メルマガはテキスト形式で配信していますが、皆様のパソコンの環境に よっては文字や改行などが正しく表示されない場合があります。 フォント:MSゴシック 文字の大きさ:12Pで ご覧ください。 ■─────────────────────────────────■ 1.親学基礎講座を2月に開催 ■─────────────────────────────────■ 親学基礎講座を下記のとおり開催いたします。詳細については、近日中に親 学推進協会のWebサイトに掲載いたします。 開催日時:2020年2月15日(土)9:20~16:40(受付開始:9:10) 会 場:RINKEN紀尾井町第1ビル (東京都千代田区紀尾井町4-5) 受 講 料:11,000円(税込)(10,000円+消費税10%) 定 員:20名 ■─────────────────────────────────■ 2.会長、高橋史朗の近況報告 ■─────────────────────────────────■ 明けましておめでとうございます。新年を迎え、教育という漢字の成り立ちに 立ち返って、教育とは何かについて考えてみたい。「教」は厳しさで子供と交 わる父性原理を意味し、「育」は優しさで子供を育む母性原理を意味している 。この父性原理と母性原理が象徴する厳しさと優しさのバランスこそが教育の 原点といえる。 日本と世界の教育の歴史を振り返ると、この微妙なバランスを取り戻そうとす る歴史であったといえる。私がアメリカの大学院博士課程に留学した1980年代 初頭は、日本では「ゆとり教育」が始まった時期で、全米各地で“Back to Basics”という学力と規律の基本に帰れ、という日本とは全く逆方向の草の根 の運動が巻き起こった時期であった。 教育における自由の行き過ぎによって学力と規律が低下し、1983年には『危機 に立つ国家(“A Nation at Risk”)』が出され、ベル連邦教育省長官が全米 を駆け巡って、「日本の教育に学べ」と強調し、基礎・基本を徹底的に教え込 む日本の学習塾を紹介する特集番組が全米のテレビで放映された。 1994年にニューヨーク市長になったジュリアーニ市長は、「ゼロトレランス (不寛容)」政策を実施し、5年間で殺人が68%、強盗が54%、婦女暴行が27%減少 して、治安が回復した。2002年にアメリカで「どの子も置き去りにしない法 (“No Child Left Behind Act”)が制定され、全米21州で児童虐待に分類さ れる“Neglect(「怠慢」)”の定義に「教育を怠ること(”Failure to Educate”)が含まれていた。 ちなみに、米ワシントン州シアトル市は、子供の不登校に対して、親に1日25 ドルの罰金かそれに見合うボランティア活動を課し、ロサンゼルス郡リンウッ ド市で、8人の不登校児に虐待(体罰)を繰り返した親に対して、2006年の審判 で、「親学講座の受講」を命じた。 アメリカの義務教育法には、就学義務について詳細に規定され、1年間に3日以 上正当な理由なく欠席した子供は「怠学」とされ、指示に従わない場合は、親 は訴追され(第48291条)、怠学の回数に応じた罰金又は親教育又はカウンセリ ングプログラムへの参加を命じることができる。又親に対して就学命令を出す こともできる(第48293条)、と定められた。 イギリスでも、1996年に制定された教育法に、子供が学校に行くのは、第一義 的に保護者の責任であると明記され、1997年の「子育て命令法(“Parenting Order”)」では、子供の不当な欠席や無断欠席の場合には最高1000ポンドの 罰金を保護者に課し、フランスでも、1998年に改正された義務教育法で、子供 が全く教育を受けていない場合、2年の禁固刑、20万フランの罰金を保護者に 課した。 私が日本政府を代表して、臨時教育審議会専門委員として海外視察をした折に、 フランスでOECD(経済協力開発機構)の幹部から、「私達と日本の学力観 は根本的に異なっている」と指摘された。日本は教科の点数を学力と考えてい たが、彼らは「人生を切り開き、社会参加する力」すなわち「自己と社会に関 わる力」=「生きる力」=「人間力」と捉えていたのである。 また、ニューヨークの中学校を視察した折に、中学生が窓ガラスを割る事件が 起き、スクールポリスが直ちに駆けつけ、保護者を学校に呼びつけて、罰金を 徴収したのには全く驚いた。日本の大目に見る教育に対して、厳しく罰するア メリカのゼロトレランス方式の現実を見せつけられた。 アメリカが日本の教育に学び、教育の「再武装」をしようとしているのに、日 本はなぜゆとり教育という「武装解除」を行い、逆方向の教育改革を目指して いるのか、と詰問された。 リベラルな民主党のクリントン政権下で広がった「ゼロトレランス方式」は、 服装の自由化によって乱れた規律を「制服」に戻すことによって回復し、不寛 容を是として、細部まで罰則を定め、違反すると厳密に処分する方式で、学校 が罰則規定が定めた行動規範を児童生徒、保護者に示し、破った場合には、直 ちに責任を取らせる方式で、1990年代に全米に広がった。 その影響を受けて、わが国でも平成17年に文部科学省が公表した「新・児童生 徒の問題行動対策重点プログラム」にゼロトレランス方式が盛り込まれ、平成 19年2月5日の初中局長通知で全国に周知徹底された。 にもかかわらず、今日、厚生労働省がかつての過ちを「子育て革命」として再 び繰り返そうとしている。昨年6月に成立した改正児童虐待防止法の4月施行を 受けて、厚生労働省は昨年12月3日、体罰に関する指針案を示した。広く国民 の意見をパブリックコメントとして聴いた上で、年度内の3月末までに決定す る予定である。 この指針案には、「身体に何らかの苦痛又は不快感を引き起こす行為(罰)は、 どんな軽いものでも体罰に該当し、法律で禁止する」と明記されている。 これは厚生労働省の「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」の報告 書『体罰によらない子育ての推進について』に基づいており、「たとえしつけ のためだと親が思っても」という文章に続く文章の引用文である。 しかし、「体罰」と自立心や忍耐力を育む「躾」を混同してはならない。「体 罰」の名の下に、「躾」や子供の最善の利益のための「指導」自体を否定する という誤解が広がれば、教育荒廃に拍車をかけることが懸念される。 教育基本法第10条は、「生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、 自立心を育成」する第一義的責任は、「父母その他の保護者」にあると明記し ている。 基本的生活習慣や自立心を育てるとともに、社会に適応していくためにはルー ル感覚や秩序感覚を育む必要があり、そのためには、たとえ子供に不快感を引 き起こしても、親や保護者による躾や指導が必要不可欠である。 厚生労働省が3年前に作成した『愛の鞭ゼロ作戦』には「子どもの言い分を気 長に聴きましょう。『わがままな子になっては困る』という想いから、親は指 示的に対応してしまうこともありますが、子どもの成長過程で必ず通る道だと 大らかに構えて、子どもの意思を後押ししていきましょう」などと書かれてい るが、親の「指示」自体を否定することは、教育の根幹を揺るがしかねない。 それ故に、産経新聞「主張」は、「しつけの放棄につながれば、逆に子供の真 っ当な成長が望めない。適切な指導まで萎縮しないよう、指針案のさらなる検 討を求めたい」「だめなことはだめだと、体験的に教えねば子供はわからない 。会津藩では『ならぬことはならぬものです』と厳しく教えた」「羹に懲りて 鯰を吹く指針では健全な成長を妨げ、本末転倒とならないか」「しつけや指導 の重要性についても論議すべきではないか」(12月15日付)と指摘しているの である。 体罰に関する唯一の最高裁判決(平成21年4月28日)は、女子児童を蹴る悪ふざ けをしていた小児男児を注意した教員が尻を2回蹴られたため、男児の胸元を つかんで壁に押し当て、大声で叱った行為は「教育的指導の範囲を逸脱せず、 肉体的苦痛を与えるために行われた体罰には当たらない」と判示した。 学校教育法第11条は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、 …懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と定め、 民法第820条は、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育を受 ける権利を有し、義務を負う」、同822条は、「親権を行う者は、第820条の規 定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と明 記している。躾も監護及び教育に必要不可欠といえる。 ちなみに、平成28年5月18日の衆議院厚生労働委員会において、金子政府参考 人は、「子に対する有形力の行使であればどんな軽いものでも体罰だというこ とになりますと、それが懲戒権として許容されることが一切ないかというと、 そうは言いきれないと思います。結局、それが、子の利益のために、かつ、子 の監護及び教育上必要なものと認められるかどうかによるということになりま す」と述べている。 平成12年の衆議院の青少年問題に関する特別委員会において、法務省の民事局 長が「懲戒には体罰も場合によっては含まれる」と答弁し、平成23年の民法改 正により、親権者は子の利益のために子の監護及び教育に必要な範囲内でのみ 懲戒できるとした。 この法務省見解を取り消し、懲戒の中に体罰は含まれないことを明確にすべき であり、子供の利益につながる有形力の行使が本当にあると思っているのか、 という初鹿委員の質問に対して、盛山法務副大臣は、「懲戒権という解釈は大 変難しい。体罰が懲戒権の範囲に含まれることはないと断定することは困難」 と答弁している。 さらに、平成29年5月26日の衆議院厚生労働委員会でも初鹿委員から同様の質 問が繰り返されたのに対して、盛山法務副大臣は、「有形力の行使を伴う懲戒 が許容される場合」の具体例として、「子が他者に危害を加えたことから、親 権者が子に反省を促すべく注意をしようとしたところ、それにもかかわらず、 子がこれに応じないで、その場を立ち去ろうとした場合、親権者が子の手を取 ってこれを引きとめ、自身の前に座らせて説教を継続する、こういう場合もあ りうる」と答弁した。 一方、塩崎厚労相は、「この問題を一歩進めるために、児童虐待防止法の改正 を行いまして、親権者は、児童のしつけに際して、看護、教育に必要な範囲を 越えて児童を懲戒してはならない旨を法律に明記した。有形力の行使は、虐待 に当たるほどのものでなくても基本的には不適切ではないかと考えている中で 、こういうパンフレット(「愛の鞭ゼロ作戦」)を作らせていただいている」と 答弁した。 この法務省と厚労省の答弁を受けて、初鹿委員は、「明らかに不一致している 。これは政治が判断しなければいけないと思います」と締めくくっている。し かし、教育の根幹にかかわる本質問題を「政治が判断」するなどということは 決して許されることではない。「不一致」の根底にある問題を十分に議論を尽 くさずして拙速な政治判断に委ねることは慎むべきである。 ちなみに、政府の「次代を担う青少年について考える有識者会議」報告書(平 成10年)は、「3 今、何をなすべきか」一?基本的認識」において次のよう に指摘している。 <”地獄への道「善意」で敷き詰められている。“ 子どもたちの間違いを「教育的配慮」という優しさから、あいまいに処理す ることにより、問題を放置し、取り返しのつかないレベルまで増幅させている ことはないだろうか。”まあまあ”で済ませてしまうのは、その時は楽である 。子どものことを思い、”悪いことは悪い”ということをはっきりさせ、真剣 に「叱り」、厳しく「罰し」、子どもに「課題を突きつける」態度が、大人に 、さらに社会に求められる。また、子どもにも、悪いことは悪いこと自覚させ るため、法律によって厳しく処分することも視野に入れる必要があろう。> 縦割り行政を排した政府の各省庁の横断的な有識者会議の「基本認識」を変更 するのであれば、産経新聞の「主張」のように、「しつけや指導の重要性につ いても論議」を尽くす必要があるが、議論は尽くされておらず、厚労省の前述 した検討会の委員の構成はバランスを欠いているといわざるを得ない。 元筑波大学教授の市川昭午氏の論文によれば、イギリスの言い伝えに、 “Children should be seen ,not heard.”(「大人は子供から目を離すべ きではないが、子供の言うことを聞き入れる必要はない」)というのがあり、 「他の国でも比較的共通した考え方」であるという。「仮に子供が大人と同等 の権利を認められるとすれば、学校に行かない、好きな時に行く、好きなこと を好きな方法で学習するなどの自由も含まれるはずだから、学校教育は成立し ないか、大混乱に陥るのは避けられない」と指摘している。 昨年3月19日の関係閣僚会議で「児童虐待防止対策の抜本的強化について」決 定し、懲戒権の在り方や子供の意見表明権を保障する仕組みについて検討する ことを明らかにしたが、児童の権利条約第5条は、「父母、法定保護者等が児 童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示、及び指導を与える責任 、権利、義務を尊重する」並びに、同第12条「意見表明権」には、「児童の年 齢及び成熟度に従って相応に考慮される」と明記されている。 また、国連「児童の権利委員会」第4・5回日本の定期報告に係る所見(2019年2 月)には、「前向き、非暴力的かつ参加型の形態の子育て及びしつけの推進に よるものを含め、あらゆる環境において実質的な体罰をなくすための措置を強 化すること」と書かれているが、権利条約が最重要視する「児童の最善の利益 」を保障するためには、本人にとって利益であることを以て、行為の自由に干 渉することを正当化する父権主義(パターナリズム)と、子供の自律性を重んじ る自発主義(ボランタリズム)をうまく調和、共存させ、2017年にノーベル経済 学賞を受賞した「ナッジ理論」のように、「親の象が鼻でそっと押しながら歩 く」必要があるのではないか。 また、同前文「児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出生前後に おいて、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とする」「児童の保 護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性 を十分考慮し…」と書かれている点も見落としてはならない(高橋史朗『児童 の権利条約』至文堂、参照)。 ちなみに、ドイツ政府は同条約の批准議案書において、成年制度が前提とする 権利能力と行為能力の区別という西欧法の伝統に依拠しながら、「子供の権利 」を「保護を受ける法的地位」というオーソドックスな枠組みで受けとめるこ とによって、”オートノミ―による保護の解体”が国内法に波及することを押 しとどめようとしたが、子供の幸福の実現は権利や法以前の「人間関係」の回 復にかかっており、「法は人間関係を破壊することはできるが、強制によって 人間関係を形成することはできない」(『子の福祉を越えて』岩崎学術出版社 、参照)と、アメリカの著名な児童福祉専門家は指摘している。 ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のヘックマン教授は、5歳までに自制 心、忍耐力などの「非認知能力」を育むことが、高校卒業率、収入、持ち家率 、離婚率、犯罪率、生活保護受給率に関係することを長期追跡調査によって明 らかにし、スタンフォード大学のウォルター・ミッシェル教授はマシュマロ実 験を同大付属幼稚園で行い、4歳児までに自制心を育んだ子とそうでない子の SATの成績の差は2400満点中、210点だったと報告している。新学習指導要領・ 幼稚園教育要領、OECD保育白書(2015)でも「非認知能力」が重視されているが、 「非認知的能力」を育むためには、しつけや指導も必要不可欠である。 ■─────────────────────────────────■ 3.図書紹介 ■─────────────────────────────────■ 『サードエイジをどう生きるか-シニアと拓く高齢先端社会』 著 者:片桐恵子 発 行:東京大学出版会、2017年 紹介者から: 2015年に団塊の世代がすべて65歳に達し、多数の高齢者層が登場してから5 年が経とうとしています。地方行政の窓口には「私は何をしたらいいのか」と 相談に来るシニアが多く、窓口を当惑させているようです。 家庭への影響として深刻なのは、退職後の夫の存在です。とにかく家を出た 方がいいのはわかっているけれども、行くところがないと鬱々とした気持ちで 一日中、夫が家にいるわけです。これは妻にとっては大問題で、なかには在宅 夫がストレスの元となって、うつ症状を呈し「在宅夫症候群(注)」と呼ばれ るようになっています。 (注)在宅夫症候群:定年後に、一日中家にいて、家事も手伝わずテレビを 見てゴロゴロしているような夫にストレスを感じる妻が呈するうつ症状(黒川 順夫、2005) 平均寿命や健康寿命がここまで延伸するようになると、定年後のサードエイ ジは一部の長生きの人の問題ではなくて、だれもが経験する人生の一時期にな りました。 すると、これまでの社会参加活動だけではなく、サードエイジは生産的活動や 市民参加活動へと場を広げるようになっています。自分や所属グループの興味 関心にもとづいた無償で私的な活動だけでなく、社会貢献の志向性を持ち、有 償で公的な活動へと広がっているのです。 積極的な意志をもってサードエイジを過ごし「人生における意味」を探求す る活動は、アクティブエイジングと呼ばれ、これからますます広がると思われ ます。一方で、それは自分達で楽しんでいた趣味を仕事にするわけですから、 適用されるルールも社会的責任の水準も一定以上のものが求められることを意 味します。好きなときに好きなことを好きなだけが通用しないわけです。 この話を親学の領域に転じてみると、いま求められているのは、高齢支援者 向けの対人援助領域における準専門職スキル・能力、ガイドラインと養成課程 だといえるでしょう。 親学アドバイザーの年齢層を想定より広げて、アクティブエイジング世代を取 り入れていく工夫とサードエイジ対象の教育学の整備が当面の課題だと考えら れます。 (モラロジー研究所研究員 木下城康) ---------------------------------------------------------------------- このメールマガジンは、ご登録をいただいた方にお届けしています。 配信を希望されない方は、お手数ですがメールで配信停止とご連絡ください。 ■■===============================■■ <一般財団法人 親学推進協会> 〈本部〉〒107-0062 東京都港区南青山2丁目2番15号 ウィン青山 TEL:03-6869-5252 URL:http://oyagaku.org 〈事務局〉〒105-0003 東京都港区西新橋2丁目9番6号 ヤノデンビル 株式会社ビーアライブ内 TEL:03-3597-1885 FAX:03-3597-1887 E-mail:info@oyagaku.org ■■======================■■ <発行人> 一般財団法人親学推進協会 理事長 浦山哲郎 <編集人> 一般財団法人親学推進協会 事務局 ■■======================■■